* WINTER LOVER *
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01.小さな雪だるま(or雪ウサギ) ≪white lover≫(ロマ組) 「あっ雪だ!すげぇ!!」 「・・・おい・・・寒い・・・っ」 「なんだよー 小説家のくせに、『じょうちょ』ねぇなー」 「お前、今『情緒』をひらがなで言っただろ」 「うっっ・・・」 「いいから、風邪ひくぞ」 「はいはーい。 てんてーに風邪でもひかれたら、困る人たくさんいますもんねー」 「俺だって、お前にひかれたら困るだぞ?」 「・・・っ」 「家事全般とかな」 「そこかよ!!」 「なに?もっと違うこと期待してた? くすくす」 「してねぇよ!バーカ!! なんだよ! 人がせっかくバイト終わったら公園でも行って遊ぼうと思ったのにさッ ウサギさんの寒がり!! 動物のウサギさんはなっ 冬でも野を駆け回るんだぞ!少しは見習え!!」 「ちなみに動物のウサギは生殖能力が強い」 「うわあああ!! 知りたくもなかった真実!!」 「愛らしい外見とは裏腹なのは俺と同じだな」 「おやじ発言な上に今度はナルシスト発言かよッ あ・・・!やべバイトに遅れる!! じゃねウサギさんっ」 「転ぶなよ」 バタン!! 数時間後。 「ただいまー・・・ウサギ・・・あ・・・こんな所で寝てるよ・・・。 まったく・・・ウサギさーん。 風邪ひくよー ほらー起きてってばー」 「ん・・・っ」 「ったく・・・せっかく人がプレゼント作ってきたのにさ。 ・・・溶けたら困るし、ウサギさん起きるまで冷凍庫にで・・・ ん? なんだこの紙・・・手紙・・・? 『美咲へ』・・? 『美咲へ。 おかえり、帰ってきたら冷凍庫を須らく見よ』・・・? 須らく・・・? ん??続きがある・・・ 『須らくは必ずという意味だ 覚えとけ』・・・って!! 手紙でも人を馬鹿にしてんじゃねぇよ馬鹿ウサギが!!!!! (ぐしゃぐしゃ!!) ったく・・・なんだよ」 がちゃんっ 「はいはい冷凍庫ねー見ればいいんでしょ見れ・・・ ・・・あ・・・」 冷凍食品やウイスキー用の氷袋が並ぶ中、それらの前にどんと置かれていた。 そこに置かれていたのは、硬くむすばれ過ぎてがちがちなった胴体と頭。 歪な形に切られた海苔の目と鼻。 そして、 さくらんぼのヘタでにっこりとした口の雪だるまだった。 心なしか、少し頭が傾いているがそれもまた愛嬌で。 作った主に似ていて、とても不器用で、でも憎めない愛らしさがあった。 ソファで寝息をたてる人の手を触ると、常に低い体温が更に冷たくなっている気がした。 手も普段より赤く、痛々しい。 美咲は急いで毛布をかけてやると、手袋を外し、その優しい手を両手で握った。 雪を扱うなら、手袋を使えばいいのに。 そんなこと簡単なことに気を回す余裕すら、なかったのかと思うと、 どうしようもなく、目の前の人が愛しくて、守ってあげたい気持ちになってしまう。 ウサギさん、 今日の晩御飯は鍋だよ。 きっと、この冷たい手ごと体の芯まで温まるからね。 頬と手で秋彦の手を温めながら、いつアレを打ち明けようか考えていた。 自分が呼ぶ恋人の名前と同じ、可愛らしくも獰猛な雪うさぎを作ったことを。 それを考える楽しみを与えてくれたこの雪に、感謝をしなくては。 美咲は雪のように冷たくも、その奥に、炎より熱い恋情を抱く恋人の手を 握りながら、「ウサギさん、雪さん、ありがとう」と心の中で告げる。 冷凍庫の中、 静かに歪な雪だるまに、寂しがり屋の雪うさぎが寄り添うのだった。 ▲ 2.雪を踏みしめる音 ≪足音≫(エゴ組) ぎゅっぎゅっぎゅっ あ。近寄ってきた。 「雪を踏むと、こう、瞑れたような音がしますよね」 「・・・・・・・・」 ぎゅっぎゅっぎゅっ 知るか、んなことッ 「ヒロさん・・・もしかしてまだ怒ってます?」 「・・・・・・・・」 ぎゅっぎゅっぎゅっ 距離を離してやる。 ふん、ざまーみろ。 「・・・・・・・・」 「・・・・・・・・」 ぎゅっぎゅっぎゅっ 沈黙になったって、許してやんねーから。 「ヒロさん・・・ごめんなさい。 俺の不注意でした・・・でも俺ヒロさんに外で偶然会えたのが 嬉しかったんです・・・それでつい、魔がさして・・・・」 ぎゅっぎゅっぎゅっ ほう? お前は俺と外で会えただけで魔がさすのか。 俺はお前を見かけても、お前には声かけねぇぞ? お前は忙しいって分かってるからな。 俺が声かけたら、お前は用事があっても俺を優先するだろうから。 俺は大人だから、色々と我慢してるんだよッ それぐらい気付け、ばーか。 当分、こっちから声かけねぇようにするわ この鈍感ッ ぎゅっぎゅっぎゅっ 「ヒロさん・・・」 ぎゅっぎゅっぎゅっ 「・・・・・・・」 ぎゅっぎゅっぎゅっ ・・・あ・・・落ち込んでペースが落としやがったな。 ぎゅっぎゅっぎゅっ ・・・なんだよ・・・バカ・・・。 ぎゅっぎゅっぎゅっ ・・・ついて来いよ・・・っ 調子・・・狂うだろうが・・・アホ・・・っ ぎゅっぎゅっぎゅっ ・・・立ち止まりがったなアイツ・・・。 「・・・・・・・・・・おい!!」 「え・・・?」 「帰るぞ」 振り向かないぞ絶対。 別に立ち止まったわけでもない。 これは・・・その、 お・・・横断歩道が赤だったから止まっただけで! そう!俺は別に・・・っ ぎゅっぎゅっぎゅ!!! 「はい!!」 「うお!?だから・・・公道でベタベタすんな!!」 「ヒロさんっヒロさん!」 「だああああ!!! 抱きつくな!顔を擦り付けんなァァァ!!」 足音だけで、お前の心が読めてしまう なんてな。 これはお前が単純なのか、 俺の自惚れなの・・・か・・・? ▲ ※普段は冷静な大人なのに、 忍の前では素に戻って子供っぽい面が出てしまう宮城・・・ な話にしたかったんです←主張 無理でしたww←結論 楽しんで頂けたなら本望です。 03.凍った水溜り(テロ組) コンコンッ 「あ、ちょっと待ってくれ。入っていいぞー」 「おい、みや・・・ぎ教授・・・こんにちは」 「・・・。 ・・・はい、こんにちは」 「あ、こんにちは」 「そこのソファで待っててくれ」 「・・・はい」 「遅くまですみません先生」 「いや良い。じゃそういうことだから。他に質問は?」 「いいえ、ありがとうございました」 「また分らないところがあれば、訊いてくれてかまわない。 頑張れよ」 「はい、失礼します」 「また来週」 バタンッ 「忍・・・」 「・・・なんだよ」 「お前さ・・・来る直前には必ずメールしろって言ってるだろーが」 「・・・いきなり来られて焦るようなことしてるのかよ」 「かー!可愛くねぇー!! 現にこうやって生徒と鉢合わせになってるだろーが」 「・・・なんか・・・」 「あァ?」 「宮城、先生っぽかった・・・」 「・・・お前・・・ 今何気に、俺の職業全否定しなかったか・・・?」 「そう?」 「・・・・・・・・・・・・・・・」 「さて。夕飯買って買えるんだろう?さっさと行くぞ」 「・・・・・・はァ・・・・・・・・」 「さみぃぃぃ・・・!!」 「つぅーかスーパー暖房効き過ぎ。寒くて丁度良い」 「そうか〜? うわっ水溜り凍ってんじゃねぇかっ」 「騒がしい・・・」 「なんか言いましたか?忍チぃぃぃン」 「ひへぇよぶあかみひゃぎ!(痛ぇよ馬鹿宮城!!)」 「年上のおじ様に生意気な口をきくのはこのお口かァ?」 「なんだお! ひとふぁえとおれのぶぁえとびゃ たいどちぎゃうぐぜじ!! (なんだよ!人前と俺の前とじゃ態度違うくせに!!)」 「えー? 聞こえませーん」 「うべ!!(うぜ!!)」 「はっはー少しは懲りたか〜?」 「ほっぺ掴むなんて、大人げねぇぞ!」 「はいはい、悪かったって」 おどけて笑う横顔を睨んでいると、忍の手は大きな手に攫われた。 戸惑うのも束の間、すぐに宮城と手を繋いでいることに気付く。 恥ずかしさと悔しさもあったけれど、それを凌ぐ嬉しさで胸が満たされる。 それがまた悔しくて、憎らしい。 愛情の裏には憎しみが隠れてる、それは誰の言葉だっただろう。 人気の少ない夜の駐車場と言えど、外で宮城から手を繋がれることは滅多にない。 忍びは嬉しさのあまり、繋がれた手を何度も見てしまう。 確認する度、胸が詰まる。 真実が変わることはなく。 宮城と自分の手はしっかりと結ばれていた。 すると、いきなり前へ導いていた手にガクン!と下へ引っ張られる。 しかし、バランスを崩すほどの力ではなく、忍はなんとか踏みと止まった。 「宮城?!」 「おぉ・・・いってぇ・・・っ」 尻餅をつく宮城に忍は急いで駆け寄る。 どうやら何かに足を滑らせ、尻餅をついてしまったようだ。 臀部だけでなく、腰も強打したらしく痛々しそうに腰を擦っていた。 「忍・・・怪我ないか?」 「俺は平気。ってかコケたのはアンタだろ?平気?歩ける?!」 真剣な眼差しの忍を、宮城は不謹慎にも笑った。 「お前、心配し過ぎ」 宮城は忍と繋がっていない方の手で、柔らかい甘色の髪を撫でた。 宮城は自分がとった咄嗟の判断に満足する。 氷の水溜りに足を取られた時、思わず、恋人の手を引っ張ってしまいそうになった。 手を離して自分は自分で手をつけば、もっと軽い痛みで済んだかもしれない。 けれどいきなり恋人の手を離して、彼が怪我をしない可能性はない。 だから手を繋いだまま、宮城は自分が痛い思いをしても、忍が苦しまない未来を選択したのだった。 結果的に、恋人に心配をかけてしまったわけだが・・・後悔はなかった。 「本当だな・・・?!」 「あぁ。ちょっと打っただけだ」 「立てる?」 忍は両手を捧げ、宮城を起こすのを手伝う。 「サンキュ」 手袋を着けていない手から、しっかりしたぬくもりが伝わってきた。 車に乗り込み、腰やら尻やらの痛みが引くまで二人きりの空間ができる。 大分痛みは引いていたけれど、心配げにぎゅっと結ばれた手が愛しくて、手離すのが惜しかった。 嘘吐きと怒られても良い、もうしばらく、こうしていたい。 宮城は宮城で恋人を想う一方、 忍は子供のような仕返しをしてきたり、水溜りでこけてしまう恋人の拙さに、 「自分が早く大人にならねば」という決意を新たにするのだった。 ▲ 04.長すぎる冬 ※パラレル注意 あと少し性描・・・写? 注意書きのレベルが分からない・・・っ 続編書くかも。 ≪六角形の永遠≫(生徒×生徒 エゴ組/『夏春』設定) 受験生の冬は、長い。 「・・き!のわ・・・っ」 時々、ひどくどうしようもないことで悩んでしまう。 「の・・・わき!」 永遠はどこにあるのか・・・と。 「おい、野分!」 「え・・・・あ・・・っ」 「こんな所で寝んなッ」 「すみ・・・ません・・・俺つい・・・。 あ、もうこんな時間・・・すぐ帰ります」 「そうじゃなくて!!」 もじもじと言い出しにくそうな弘樹の横顔に、野分は寝ぼけ 眼でじっと見詰めていた。 やっと聞こえた声は、本人もやっとの思いで絞り出した声だった。 「・・・今日・・・泊まってけ」 「ヒロさん・・・ 分かりました・・・寝汗かいたので、とりあえず風呂借りますね」 「何を深読みしてんだよこのエロガキァァ!!」 痛い、痛いです。 腹にキックは・・・反則です・・・っ 「痛い・・・です」 殴っっても蹴っても、野分の視線は相変わらず宙をさ迷っていた。 反応の悪さに、弘樹は溜息をつく。 「お前・・・もしかして寝惚けてる? はぁ・・・どっちにしろ、もう寝ろ。続きはまた明日だ!」 「いえ、もう少しだけ」 「バーカ。 採点中寝ちまうぐらい疲れてるのに、実になるかッ こういう時は、さっさと寝ちまうのが一番なんだよ。 明日日曜だし、バイトもないんだろ? 午前中早めに起きてやればいいじゃねぇか」 「・・・でも・・・」 「いいから! 風呂沸いてるしっ今日は寝とけ!!」 そう言って無理やり風呂場へ向かわせる。 「ではお言葉に甘えて・・・」と告げ、風呂場へ入っていく 背中からは、かなり疲労感が漂っていた。 弘樹に気を使っているのか、平気なふりをしていることは分かっていた。 しかし、それに気付かないふりをしてやれるほど、弘樹は器用ではない。 上條弘樹 非常勤講師。 草間野分 高校三年生。 二人の間に流れる時間は、質も量も価値も違い過ぎていた。 俺はアイツに、何を与えられるのだろう。 野分から告白されて、二人の交際はスタートした。 しかし、 この長い冬を乗り切った後も変わらず、 野分は自分を必要としてくれるのだろうか。 卒業したら、当然会える時間も減ってしまう。 春になれば、アイツは大学生になって、環境も友達も世界も変わる。 冬が終われば春が来る。 今日が終われば、明日が来る。 一歩づつ、確実に、温かい春に近付く。 春が来れば、冬に眠っていた蕾も目を覚ます。 彼もいつか、 こんな不毛な恋から目覚めてしまうかもしれない。 目が覚めても、 アイツは俺を選んでくれるのだろうか。 「お風呂、ありがとうございました」 採点済みのテキストを片付ける弘樹の背中に、風呂上りの熱い腕が優しく包む。 弘樹はその手を逆手に取り、ベットに押し倒した。 唖然とする野分からは、すっかり眠気は吹っ飛んでしまったらしい。 居た堪れず、弘樹は野分の上に跨ると、挑発するように野分の唇に自分のそれを押し付けるのだった。 溶かされて、ほだされて、境が分かるなくなればいいのに。 灯りは消され、人間二人分の重さに、ベットが軋む。 静かに降る雪のように、優しい口付け。 荒々しくかき乱され、息が上がる。 暖房で乾いた部屋の中に響く蜜の音。 「ヒロ・・・さんっ」 この腕に抱かれたまま いっそ冬にしか降らない、雪の結晶の中に閉じ込もれたらどんなに幸せか。 「んっんッんぁ・・・っ」 しみこんでいく涙はシーツの染みとなる。 まるで雪が降っているみたいで。 その儚さが、まるで自分達の関係のようで、また涙がこぼれた。 「のわ・・・きッ・・・ァ・・・野分・・・っ」 冬よ どうか俺たちを 閉じ込めて。 ▲ 宮城と忍、パラレル。 幼馴染設定の【一番星】設定。 ※今回は大学一年生宮城と幼稚園忍です。 先生が亡くなり、しばらく経って、宮城が人付き合いがうまくなり始めた頃です。 05.冷たい手(テロ組/幼馴染パラレル) ≪冷たい手 小さな手≫ 宮城は自分の目を疑った。 学校指定の鞄を小脇に抱え、何度か目を擦るがやはり『それ』は変わらない。 距離が縮まり、はっきりしていく『それ』は、やはり短い足でつまらそうに小石を蹴っていた。 マフラーがずれ落ちる。 『それ』はやっとこちらに気付いて、「みあぎ!」と大声で宮城を呼んだ。 「お前・・・まさかずっと待ってたのか?」 落ちていたマフラーを巻き直し、 まさかな・・・いやいや、コイツならやりかねないと思いつつ、訊ねてみる。 しかし本人は図星だったらしく、「うっ」と狭い眉間に皺を寄せられた。 ずっと待っていたことを宮城に知られたくないのか、忍は違う!!と 首をぶんぶん振り回し体全体で否定した。 「ちがう!ちがうから!ぜったいぜったいちがう!」 「あーはいはい・・・」 いつから待っていたのか。 鼻頭は真っ赤になって、ぶるぶると肩は震えている。 確かに数日前、今日この日に、理沙子と家で待ち合わせをしたが、 何時に行くとははっきり伝えていなかった。 家を出る直前に電話をしたが、それだって三十分近く過去の話。 だとすると、忍は少なくとも三十分前にはこの寒空の下にいたことになる。 いくら『子供は風の子』と言えども、忍はマフラーはしていても、手袋もパーカーも 身につけていなかった。 見ているこっちが寒くなるほどの軽装に、宮城は罪悪感すら覚える。 何も知らなかった自分に、非があるとは思えない。 思えないが、「んくちゅ!!」などと自分のせいで幼い子供にくしゃみをされれば、 胸が痛むのは当然だろう。 宮城は急いで彼の家の中へ入った。 玄関にも暖房が入っているため、外との温度差がかなり激しく、鼻水が出た。 「お邪魔しまーす」と宮城が来訪を告げると、忍も真似して「しまーす」と大きな声で告げた。 ずびっと二人で鼻を啜っていると、物音が聞こえた。 中から出てきた理沙子に「そんな薄着で出たの?!」と怒られながら、忍は宮城か ら離れがたそうに、自身の自室へ強制連行されていった。 「アイツ、庸が来るって聞いたら『いつくる?いつくる??』ってしつこくて・・・。 そのうちよって言ったら、なんて言ったと思う? 『かのじょのくせに、わかんねーのかよ』だって、マジ生意気」 腹が立ったからそのままにしておいた結果、忍は待ちきれず家の門で宮城を待つこと を決めたらしい。 子供の思考回路は単純だが、それ故、自分の体を省みない行動も平気で選択してしま うから恐ろしい。 予測不可能に振り回されて疲れたのか、理沙子はマグカップを持ちながら溜息をついた。 宮城は苦笑を浮かべていると、リビングのドアが微かに開いた。 半開きのドア影から、こちらを大きな瞳がじっと伺っていた。 体は半分以上も見えているといのに、本人は忍者のように気配を消ているつもりらしい。 頭隠して尻隠さず、どころか、頭すら隠れていない・・・。 理沙子には「放っておいていいから」と言われたが、そうもいかず、結局「おいで」と忍を呼んでしまった。 ぱたぱたっと駆けてくる足音が可愛い。 手はやはり冷たかったので、両手で包んでやった。 「みあぎ!あとで、かたぐるま!!」 「お前アレすきだな」 和気藹々とした雰囲気を、じとりと睨む視線にびくりと背中が寒くなる。 子供の存在感に負け、結局今日も恋人との二人きりの時間を潰してしまった。 恋人の、理沙子の顔が見れない宮城であった。 このあとで、 日曜日にデートの約束を結ばされる羽目と、なるのだった。 「あの後、お前風邪ひいたんだっけな」 「・・・よく覚えてんな」 「あの時さ、俺を待って冷えたお前の手を触って、 『なんでコイツこんなに必死なんだろ』って思った。 はっきりいって、理解しがたかった」 「・・・・・・・・・・」 「でも分かったこともあった。 『守れるものなら、俺がコイツを守りたい』って・・・思ったんだよ」 「それは・・・今でも、有効?」 「バーカ。 有効どころか、義務だろ?」 「また・・・子ども扱い」 「してねーよっ 好きな奴扱い、してるだけだろ?」 「・・・馬鹿宮城・・・」 「・・・ませガキ・・・」 「それを好きなのはアンタだろ?」 「それを好きなのはお前だろ?」 それはまだ 遠い 遠い 未来のお話でした。 ▲ 草間園の園長先生の丁寧口調が野分にうつってしまって、 あの口調が野分にも定着したとかだったらもゆる・・・っという話です!^^ でも年下には、お兄ちゃん的存在だったからその癖が出て、 タメ語なんだけど、どこか優しげ!とか。 結論:草間園の園長さんが常に丁寧語だったらもえ!(違) 06.こたつとみかん(エゴ組) 野分、元気ですか。 園への寄付、いつもありがとう。 でも無理はしないように。自分の体も、大切にしてあげなさい。 最近寒くなってきたので、こたつを出しました。 子供達は大喜びでした。 こたつは良いですね。 温かくて、人々の心を穏やかにしてくれます。 そしたら、急に君に手紙を書きたくなりました。 君は幼い頃から、本当に良い子だったね。 どんな大怪我をしても泣かなかったし、 先生の言うことはきちんと聞いて。 年上を敬い、小さな子供達の面倒をよく看て、自分は二の次。 まるで絵に描いたような ゛良い子 ゛でしたね。 私はそんな君が、実はとても心配でした。 君は覚えているかな。 昔、私は君にこんなことを言いました。 「野分。 君はこたつを囲んで、 一緒にみかんを食べたくなる人はいますか」って。 そしたら君、なんて言ったか覚えてるかい? 「俺は寒さに強いです。だから、俺はこたつに入れなくてもいいんです。 きっと誰かが寒い思いをしてるだろうから、他の誰かに、 代わってあげたいです。 みかんも、いりません。お腹を空かせている人に、あげたいです」って。 その時私は、心から君の幸せを願ったよ。 けれど同時に怖かった。 こんな小さな体に一体何が詰まっているのか、不安になったんだ。 人の幸せばかりを願うことこそ、君の幸せとは分かってはいたんだ。 けれど、 それは本当の幸せじゃないことも、私は分かっていた。 君はどんな人間に成長していくのか、とても心配でした。 でも・・・最近は安心しています。 君からくる手紙を、いつも楽しみにしています。 今度、是非園に二人で遊びに来てください。 園の庭にみかんがなったので、一緒に送ります。 風邪などひかないよう。 また手紙を書きます。 上條さんに、宜しくお伝えください。 草間 「・・・ヒロさん」 「んー?手紙なんだって?草間さんにお礼の電話しなきゃな」 「ヒロさんっ ヒロさんはこたつを囲んで、 一緒にみかんを食べたくなる人っていますか?」 子供の頃より、俺は周りが見えなくなった。 もう何も手につかないほど、 眩しくて、 愛しいモノを見つけてしまったから。 「・・・なんだそりゃ、なんかの心理テストか?」 あなたを知ってしまったから。 「違います。でも真面目に答えて欲しいです」 「・・・なんだそりゃ。そういうお前は?」 ヒロさん、 それ分かってて訊いているんですか? 「・・・どーなんだよっ」 園長先生、ごめんなさい。 俺はちっとも良い子なんかじゃなくなりました。 幼稚な欲だらけの、弱くて、惨めな大人になってしまった。 「ヒロさんに、決まってるじゃないですか・・・!」 でもね、 それでも良いかなって俺は思っているんです。 「なにどさくさに紛れて抱きついてんだよ!?」 「ヒロさーんヒロさん、ヒロさんっ 言ってくれるまで、離しませんよー」 「うぜえええええええ!!!!」 ごめんなさい。 俺は今、とてもしあわせです。 ▲ ※秋彦の高校生時代、美咲を好きになり始めた頃のお話。 07.裸の木(純愛ロマ組) 横断歩道を渡る。 いつもなら簡単に渡りきってしまうが、今日は違う。 ゆっくり、ゆっくりと・・・。 手を引っ張り過ぎないように気を付けながら、同行者の短い歩幅に合わせる。 やっと車道を横切りきると、美咲は「やったー!」と達成感に満ちた声で喜んだ。 横断歩道で大げさなとも思ったが、美咲の嬉しい気持ちが移ったように秋彦 も「やったな」と微笑ましい気持ちになった。 秋彦は片手にスーパーの袋、片手に美咲の手に結ばれていた。 美咲は高校の友達の弟で、可愛らしい仕草はもちろん、素直で明るい子だった。 秋彦によく懐いており、秋彦が家に遊びに来た時は始終傍にいるほど、美咲 は彼が大好きだった。 秋彦もおぼつかない足音で後をつけられては、悪い気などするわけもない。 「あきひこさん」と舌足らずな口調で呼ばれた日には、胸の奥から喜びが溢 れたものだ。 「美咲、今日はオムライスだぞ」 美咲は兄と両親の四人暮らしだが、両親が会社の懇親会で家を留守にしていた。 兄の浩孝はバイトなので、美咲のよく懐いている秋彦に白羽の矢たったわけだ。 家族の面倒を押し付けて悪いなと謝る浩孝だったが、可愛い美咲のためなら 喜んでと、秋彦自身は二つ返事だった。 夕飯の献立を聞いた美咲の顔に、明るい花が咲く。 「もしかして・・・ふあふあの!?」 「あぁ・・・もちろん」 「やった!!」 「その代わり、にんじんも食べるんだぞ? 甘く煮つめて、くまの形にしてやるから」 「ほんとう!?だったらへいき。あきひこさんっありがとう!!」 秋彦の手作りふあふあオムライス。 それは美咲にとって、魔法の言葉だった。 ふあふあとした見た目と同様、軽い食感とチキンライスの旨みが口いっぱい に広がる。具材の美味しさや調味料の加減も良く、ほくほくのご飯。 想像したただけで、笑みがこぼれる。 美咲はほっぺを押さえ「あきひこさん、だいすきっ」と言った。 秋彦にとっても、オムライスは美咲を笑顔にできる魔法の言葉だった。 歩道にそった並木は秋を越え、葉も落ちきっていて、冬仕様になっていた。 「ねぇ・・・あきひこさんっ」 「ん?」 「木さん、さむくないのか?」 「どうしたんだ・・・いきなり」 「だって、おれはこーんなにあつぎでも、 木さんたちははっぱすらないんだよ? ぜってーさむいし!! それにさ・・・さみしく・・・ないのか?」 先程まではしゃぎ過ぎていて、美咲の帽子やマフラーがずれていた。 それを直してやりながら、秋彦は答えた。 「美咲はそんな心配しなく良」 しかし、せっかく直したマフラーも美咲は引き抜いてしまう。 「あきひこさんっ おねがい、これ、木さんにあげて」 美咲の瞳は、真剣そのもので。 しっかりした芯を持った幼い存在に心が震える。 小さな手に乗った帽子や手袋やマフラー。 「木さん達ははっぱもなくなって、さびしいし一人ぼっちでしょ? おれには・・・あきひこさんや、兄ちゃん達もいるからだいじょうぶだよ。 だから・・・これ、あげたいんだッ」 なんと愚かで 「ね?あきひこさんっ」 「・・・美咲・・・」 だがどうしてこんなに 「お前は・・・本当に、やさしいな」 愛しいのだろう。 「あ・・・あきひこさん?」 抱きしめると分かる。 自分を守っていたものを差し出し、自分は寒さに震えるこの肩は、 どんな虚勢で固められ肩よりも頼もしいことを。 この小さな肩に、焦がれてしまう。 「くっくるしい・・・よ・・・っ」 家族の温かさを知らない俺を、 この木のように、お前は慈しんでくれるだろうか。 「大丈夫。 葉は散ってしまったけれど、それは土に還っただけだよ」 「かえる?」 「そう。還っただけだ。 来年になれば、また新しい葉は茂る。そしたらもう寂しくない」 「ほんとう?」 「本当だとも、俺が美咲に嘘をついたことがあったか?」 「ない!」 「だろ?」 秋彦は美咲が脱いでしまったものを再び着けなおしていく。 秋彦の言葉を全て飲み込めたか分からないが、美咲なりに納得した らしく、大人しく手袋をはめられていた。 「ねぇあきひこさん」 「ん?」 「はっぱさんは、木さんのところにかえってくるんだよね?」 「え・・・?」 「もう少しがまんすれば・・・木さん、はっぱさんに会えるんだよね?」 「・・・あぁ・・・ きっと・・・帰ってくるよ」 「よかった・・・! 木さんっもう少しがんばってね!!早くらいねんになるといいねっ」 秋彦は小さな手を引っ張り、歩みを進めた。 「なぁ美咲」 「うん?」 「・・・いや・・・早く帰ろうな」 「うん!!」 帰ろう、君を大切にしてくれるあの家に・・・。 ▲ |