ジェネレーションギャップ、と言うやつ、だろうか・・・。 忍ちんと、時々会話が合わない時がある。 何気なくつけたテレビの歌番組。 昔流行った曲を、CMなどでよく見かける歌手がカバーして歌っていた。 「これ、最初誰が歌ってたんだっけ?」と、台所でフライパンを振り回 していた忍に尋ねる。 しかし、忍は目はフライパンに釘付けでそれどころではないらしい。 しばらくして返された返事は、「どうでもいい」だった。 そもそも、興味の対象ですらなかったらしい。 また、秀才忍君の素晴らしぃー御成績を拝見するまでは、立てた親指付き で「頑張れよ!」などと我ながら間抜けな台詞を吐いていた。 今思えば、我ながら中身のない台詞だっととは思うが・・・。 それを見透かしたように、忍はムッとして、「オヤジ臭せぇ励まし」 と俺の心を見事に綺麗なぐらい一刀両断した。 そんなことが少し・・・、 ちょっと・・・、 いや・・・・はっきり言って悲しきかな、多々ある。 仕方ないと言えば仕方ない、忍と俺の歳の差は一人の人間が成長 するに十分な歳で・・・。 それぐらい、俺の罪は重いというのが厳しい現実。 だがそれでも、 こいつから離れられないのも曲げられない現実だった。 今も、不慣れな手付きでキッチンで四苦八苦している恋人。 一生懸命な横顔が、たまらなく愛おしい。 「・・・・・・なんだよ?」 俺は無意識に笑ってしまっていたらしい。 むっとした顔で、忍がこちらを睨んでいた。 俺の笑みの意味を、自分を馬鹿にしていると勘違いしているようだった。 俺は本心がバレるのが嫌で、 汚い『大人』の俺は、「焦げてる」と話を逸らすのだった。 煙草に着いた火が、薄暗い部屋の中を頼りなく照らしている。 紫煙は儚く揺れ、まるで自分みたいだと思う。心地良い疲労感に包まれても、 自虐的な自分がいた。 いかん、いかんぞ自分・・・・! 最近本当に余裕が無さ過ぎだろ・・・っ 今日もそうだ。 大人げなく、忍と異性の同級生が一緒に帰っていたところを 見ただけで不安に襲われた。 「おいおい、忍ちん。俺が好きだの、運命だの人を散々かき 回したのはどこのおぼっちゃんかな?」などとかなり焦っていた。 「嫉妬してたの?」 それを本人に悟られてしまえば最後、こいつのペースに乗せられて、 言い訳のように体を求めた。 唇を重ね、舌を絡め、起ち上がり始めたそこを口で愛撫する。忍の 口から漏れた高く甘えた声にひどく欲情した。 この声は、俺以外の誰も聞いたことがないのだろうとほくそ笑む自 分。その後は自制が出来ず、貪るように激しく体を重ねた。 明らかに『大人』の行動ではない。いくら好きになったからと言って、 衝動に流されてしまう自分が格好悪過ぎて、頭痛が絶えない。 「はぁぁぁぁぁぁ・・・・・・・・・っ」 研究室でキスして、 部屋に連れ込むなり、時間を惜しむように裸になって。 真っ赤な顔で跨れた時の忍の顔を、心底可愛いと思った。 拙い腰の動きも、喘ぎ声に混じった自分を呼ぶ声も、全てが愛しい。 擦り切れたの理性も一層弱まって、気付けば細くて白い体に溺れていた・・・・。 一体俺はどこから落ち込めば良いのか・・・っ 溜息をつく横では、ただひたすら熟睡する無邪気な寝顔があった。 「洗いもん、水につけとけよッ」 「分かってるって! それより宮城っ鍵忘れてる!!」 忍の作った朝食、もとい、キャベツ炒めあんどトーストを食べ 終わった二人は、急いで家を出た。 慌てるあまり、せっかく取りに戻った鍵を落としそうになりながらも、 なんとか鍵を閉め、先にエレベーターに乗っていた忍と合流する。 「はぁ・・・はぁ・・・」 短距離とは言え、体にかかる負担は侮れない。 「送ってく」 呼吸しながらでも、忍には宮城の声はきちんと伝わっていた。 「はぁ?!良いってそんなの!!講義あんだろ?大学行け」 「いいから。 これぐらいさせろよ。・・・・体・・・キツいんだろ?」 「!?!」 忍が料理を作ったり、歩いたり、屈んだりする度、宮城は 実ははらはらしていたのだ。 時折走る腰の痛みを隠しながら平静を装う姿は、到底一般 的高校生の姿とは言い難い。 原因は大人気ない自分のせいだと、はっきりしている。 学校に送っていくぐらいの罪滅ぼしは、させて欲しい。 ところが、 「大した事ねぇよ!」 忍はあくまで強気だった。 が、本音は宮城の言葉が嬉しかったので、赤面どころか首 の付け根まで真っ赤になっていた。 ばかわいいなぁと思うのは、自分自身、年齢も中身もオヤ ジ化していると言う証拠だろうと宮城は自嘲する。 「悪かったよ」 「だから・・・気にすんなって」 走ったせいで汗ばむ忍の頭を撫でながら、柔らかい前髪を 上げ、現われた額に口付けした。 「!?」 だが、大人しくキスを受け入れるほど、忍は素直ではない。 バネ仕掛けの人形のように、額に唇が触れた瞬間、右手が 宮城の腹を大きく抉る。「ぐは!?」と、情けない声を上げ ながら、宮城はエレベーターの壁にもたれ掛かった。 「朝っぱら何すんだよオッサン! ってか、謝ってるくせに全然反省してねぇだろ!!」 忍は「地獄へ堕ちろ!」とでも言いたげな顔で、親指以外 の指全てを手の中へ収め、そのまま拳を逆さまへ突き落とした。 痛みのあまり反論が出来ず、宮城は腹を抱えていた。 エレベーターのドアがロビーで止まると、忍は「じゃ 学校行くから」と宮城を置き、外へ飛び出す。 しかし、宮城の手はその手を掴み進行を阻むと、エレベーターの中へ引き戻した。 忍は何が起こったのか理解できず、されるがままそのまま、宮城の胸へ抱かれた。 「ふざけんな!」 はっと我に返った忍は、宮城の体の中でジタバタする。 「ふざけてなんかいないさ」 宮城は忍が逃げられぬよう、左手で拘束し、右手でエレベーターの 【閉】ボタンを押す。そして、世間から遮断されたエレベーターの中で、 忍を思いっきり抱き締めた。 「もう少し、一緒にいさせろ」 自分と同じ匂いのシャンプーの匂い。 制服のシャツから覗く白い肌には鬱血の痕。独占欲で、自分がつけてものだ。 このまま抱き締めて、服にも俺の匂いが移ったら良いのに。 「・・・・・・・・・・・・」 おずおずと、背中へ伸ばされる手。 重なりが一層強くなって、小さな恋人の吐息が耳にかかる。 それだけで、またキスしたくなる自分を必死に堪える。 「・・・・宮城」 二人は互いに恋人のぬくもりに、幸せそうに浸っていた。 「ここで良いか?」 登校時間真っ只中に、表門に車を寄せる勇気もなく、宮城は裏門に忍を下ろした。 「平気、送ってくれてありがとう」 「どーいたしまして」 バタン!!とドアが閉まる。 次はいつ会える?なんて質問、意地でもしない。 自分と約束する、次会う時は、全てが終わった時。 まずは目前の、受験だ。 これを乗り越えれば、 宮城だってしばらくは俺と会う時間を増やしてくれるだろう。 忍にはある野望があったが、それはまだ先の事。 とにかく今は目の前にある問題を、 ひとつずつクリアーしていかなければ。 早く来いよ、受験日。 俺が落ちるわけ絶対ないのだから。 「忍!」 振り向けば、わざわざ車から降りた宮城がこちらへ向かって 親指を突き出していた。 「頑張れよ」 ダサい・・・・。 いつの時代の応援だよ。 俺はくだらないと振り返るのをやめ、校舎を目指す。 非難を口にしながら、胸が熱くて仕方ない。ドクンドクンと脈打つ心臓、 いい加減慣れろよ、色んなことを二人でしているのに、好きが止まらない。 でも本当は、 どんなサインでも良いんだ、 宮城の気持ちが込もっていれば。 別の時代を過ごしていても、 自分と同じ時代を過ごしてきた奴らにではなく、俺にさえ伝わっていれば良い。 顔を見られるのが恥ずかしかったので、 忍は後ろ向きに、宮城と同じポーズをとっていた。 好きな人が応援してくれて、 喜ばない奴がどこにいるッ そうだよ、 俺はあのオッサンが好きなんだよ、悪りぃかよ! |