髪が絡まぬよう、ひとつに束ねるとシャツの下に忍ばせて。 一気に引き抜いたTシャツを洗濯機の上に置くと、コンコンと扉の向こうから聞こえた。 控えめのノック音。 私は気にせず下も脱ぎ、下着姿になって「どうぞ」と答えた。 「悪い、ちょっと歯ブラシ取らせ・・・うわ!」 ホックを外そうとした時、宮城から悲鳴に近い声が上がった。 見ると、腕で目を隠していた。 その下の頬は心なしか赤くなっていて。 正直、何を今更と・・・と呆れてしまった。 「・・・なに?」 「お、お前は・・・ッ もっと恥らえ!いいな? もう着替えてると思ったから入ったのに、 その・・・別にそうじゃないからな、違うからな!?」 「ハイハイ」 今まで散々なことを二人でしてきたというのに、下着如きにここまで過剰反応されても・・・。 とにかくホックを外すのはしばらく待ち、腕を組み脱衣を中断する。 鏡に映る、下着姿の自分はまだまだ幼く、成熟した姉の曲線には到底劣る体つき。 胸周りも、腰も、足の長さも、どれをとっても、まだ発展途中。 雑誌の表紙を飾るような体つきとは、かなり遠くて。 でも、 それでも、 このひとが、 私を【ひとりの女性】として気にしてくれたことは・・・素直に嬉しかった。 「悪かったな」 「気にしてないから」 ドアを閉める最後の瞬間まで、彼は目を覆っていた。 「どーぞ」 「あぁ」 タオルを頭から被り、宮城は忍の横を通り過ぎ、バスルームに向かった。 シャンプーと、洗い立てのシャツに包まれ、髪を拭う。 粗方の水気を取るも、この長い髪では、乾くのにはまだまだ時間が掛かりそうだった。 髪を乾かそうと、ドライアーが仕舞われている脱衣所のドアを開けた。 そこには上半身裸で、これから下を脱ごうとしている宮城がいた。 宮城の動きが凍りついたように、動かなくなった。 そんなに驚かせてしまったのだろうか。 「あ、ごめん。ドライ」 そう言えば自分はノックせずに開けてしまったな・・・と思いつつ、 宮城と視線がかち合った瞬間、 「ぅわあああああああああ!!!」 まだ脱いでもいないくせに、宮城は近く置いてあったバスタオルで体を慌てて隠した。 「な!・・・い、いきなり入ってくんなッ ビビるだろ!」 「・・・なんなのその態度っ」 正直、五月蝿いと思ってしまった。 女である私とは打って変わり、宮城はあわあわと挙動不審で。 何をそんなに慌てる必要があるのか分からず、先程宮城が自分にしたよう、忍も 両目を両手で覆い、視界から彼を追い出した。 これで良いだろうと言わんばかりに。 裸が見られるのがそんなに嫌だったのか、それとも相当驚かせてしまったのか、 宮城はようやく落ち着き、冷静さを取り戻していった。 「で、ドライアーを借りたいの。 持って行くから、使って良い?」 「・・・ご自由に」 彼もそんな自分に呆れたのだろう、声色はどこか低めだった。 自分ではドライアーがどこにあるのか分からず、宮城に取ってもらった。 宮城がドライアーを探している間、指の間から、少しだけ彼を覗いてみた。 決して三十半ば過ぎの男の裸体が見たかったわけではなかった。 けれど、なんとなく、フェアじゃなくて・・・つい、反発したくなった。 何もかも独占されて、自分ですら見たことがない処まで暴かれて。 愛されて。 なかされて。 これ以上、彼は自分に何を求めるというのか。 そんな彼ばかりに命令されるのは、フェアじゃない。 でも私は、見たことを後悔した。 「・・・・っ」 指の間から見えたのは、痛々しいほどの爪痕。 三日月型のものや、甘皮が剥け蚯蚓晴れのようになっているものまであって。 中にははっきりと、指の形をした赤い痕まであった。 あれを愛の証だと断言できるほど、私は傲慢ではない。 声も上げられず、顔を背けた。 「見なきゃ・・・良かった」 「わーるかったな!残念な体で!!」 無意識に出てしまった言葉に宮城は怒ったが、その目はとある一点を見た途端、 傷を見てしまった忍のように顔を背けた。 彼が見たのは、内腿に作られた鬱血。 白い太腿に咲く鬱血は、まるで薔薇の花びらのように、妖しく美しく。 内腿は特に陽を浴びていないせいで余計に白美、そこに遺した浅ましい証。 これを愛の証だと断言できるほど、宮城は簡潔な男ではない。 一面の銀世界に、 自分の足跡をつけたがる心に似た、幼稚な支配欲。 二人の思惑が今日もすれ違いながら、渦巻いていく。 まだ素直に言えないけれど・・・ 「お風呂から出たら、シャツ着ないでリビングにきて・・・」 やりすぎてしまう、こんな私を 「スカート・・・もう少し長くしろよっ」 建前ばかりの、こんな俺を 「「 は?なんで? 」」 これからも どうぞ よろしく。