宮城は目の前の現実を、現実として受け入れられなかった。 「な・・・・・・・・・ッ」 受け入れられなかったのではない、受け入れたく・・・・・・なかったのだ。 ―――あぁ・・・・・・神様。 こんな時ばかりに頼って悪いが、こんな時だからこそ、アンタに祈っちまうんだよ! だってまさか、 仕事から帰って、疲れて、たまに恋人の家に寄ってみたらいきなり・・・・・・。 「なに勝手に入ってきてんだよエロおやじ!!」 白いシャツから伸びた白い腕、ひだのついたスカートに、首元のリボン。 どこからどう見ても、恋人は女子高生になっていて。 正直、なんの冗談かと思い、扉を閉めてしまいました。 「建学祭、なんだよ」 忍曰く、この格好には正当な理由があったそうで。 何故かお互い、正座になって向き合った。 「友達が女装男装カフェやるんだけど、人手不足だから手伝って欲しいって」 「はぁ………」 「なんだよッ」 「お前………変なトコで友達思いっていうか、律儀っていうか・・・・・・」 「なんで?友達が困ってるって言われたら手貸すじゃん普通」 いや、普通はいくらなんでも手伝わんと思うぞ……。 ある意味、『人選』と言う意味ではその友人の評価は間違ってはいない。 髪が短いとは言え、グレイの瞳や端正な顔立ちに女子の制服は正直似合っていて………。 華奢な体や、スカートから見える膨らみのある太腿はとても女性的だ。 しかしその意思の強い眼差しや、喉の膨らみなどは男性特有の物。 男女のバランスがとれ、まさにユニセックスといった感じ。 見れば胸になにかいれているのか、やや膨らんでいた。 「……どう、なんだよ」 「……は?」 「キモいと思ったのかって訊いてんだよ!!」 「は!?」 戸惑うとかいう問題ではない。 まぁ確かに、どこの世界に男に女装して喜ぶ男がいるのだ。 いや、そもそも男と男は付き合わないか……。 いやいや、だから……そうじゃなくて………!! なんで俺が……こんなに焦らなきゃならんのだ……ッ 「あ、いやだからッキモいとか」 「!」 「いや待て違うからな!?」 クソ……ッ喉が渇く………ッ まるで砂漠のようにカラカラな喉元は、言葉すらも育てられない。 言いたいことが纏まらない。 声をかけてやれない苛立ち。 こうしている間にも、 忍は傷付いてるんじゃないかと思って……っ あぐねる俺に痺れを切らしたように、忍は立ち上がると、ボタンも外さずシャツを脱ごうと 裾に手をそえ上げようとした。 このままでは顎が引っかかってしまうと、腹が見えたところで宮城は慌てて忍を止めた。 しかし忍はそれすらも拒否した。 「離せよ!!」 「馬鹿!落ち着け、何も脱がんでも……」 「嘘付け!どうせキモいとか思ってるくせに!! どうせ俺が傷付かないようにとか、そんな甘い考えなんだろ!?」 「忍!」 でも頭の片隅で、分かっていた。 「なん………だよッ」 言葉を発したら最後……後戻りが出来くなることを。 格好なんてどうでも良い。 涙の溜まった瞳とか、 染まる頬とか、 真っ直ぐな「好き」って気持ちとか。 どれもこれも、 「………………………………………可愛い」 「……………えっ」 耳元で、呪文のように繰り返す。 「可愛い……って言ってんだよ」 「なっ………なに、いきなり………うわ!?」 抱きしめて、顔を隠す。今顔を見られたら俺は確実に死ねる自信があったから。 ……………だってそうだろ? 「ん………っ あ、宮城!そんな………トコ………っ」 コイツが男とか女とか関係なく、いつも焦がれてしまう。 スカートから捲れて見える太腿のライン。 シャツの下で蠢く自分の手は、まるで蛇のようで。 細い体を食い尽くさんとばかりに、無残にも這っていく。 ふと指先に触れた感触に、思わず忍の顔を覗きこむ。 すると、恥ずかしそうに忍は顔を腕で隠した。 指先に当たったのは、ワイヤーの硬さと膨らみのある布地の柔らかい感触。 「………友達が………」 「付けろって?」 「………………だって」 忍は変なところで真っ直ぐ過ぎるところがある。 きっと、友人にからかい半分で制服と一緒に渡されたのだろう。 『これは俺の問題だ。一つの事をマスターする前に次の段階にいくのは 俺が許さねぇ』 なんてことを言い出すぐらいに、眼前の恋人は変に完璧主義者だから。 「な!………ん!!」 キスをして、上顎を舌でくすぐり、絡めてまたをキスをして。 そうしているうちに、強張っていた体が徐々に力が抜けていく。 シャツのボタンを外し広がる、桜色の下着は白い肌によく映えていて。 小さなその存在は、少し、桜の花びらに似ていた。 ひらひらと、捕まえられそうで捕まらない。 なのにどうしようもなく愛しくて、ふと振り向けば傍にいてくれる。 「忍」 忍の目も、すっかり自分の姿など気にしていないようだった。 「宮城………ッ」 ただの 【愛しい存在】を 求めていたのだった。