熱に犯されて




「服、ここに置いとくぞ」  忍と付き合いだして数ヶ月。 「ありがと」  ついにアイツが置いていった服を、  洗濯して、世話してやる仲にまでなっていた。  リビングに戻り、ソファに腰を落ち着ける。  洗い立てのパジャマからは、人工的とはいえ花の香りが漂っていた。  ソファに横たわると、また眠気が襲ってくる。  宮城はいかんいかん・・・と頭を振った。  ほんの一時間前まで、  宮城はこの広くもないソファで、忍と二人で寝ていたのだ。  弾力のある白い肌を撫でているとなぜか安心して、  さらさらの髪を撫でると心地が良く、  気付けば額に唇を寄せていた。  忍は忍で眠たそうで。  まるで眠気に負けた猫のように、好き勝手にさせてくれた。  そしていつの間にか、二人して眠りの湖に沈んでいたというわけだ。  起きたのはその数時間後。  狭くベットより硬いソファでは、肩や背中を痛めてしまい、目が覚めたのだった。  風呂から出ると、そこには眠気眼の忍がいた。  「家に帰るのも面倒だ」と、目を擦りながら入れ替わるように風呂場へ向かう。  何を言う、すぐ隣だというのに。  苦笑するも、宮城はあえてその言葉を胸の内に秘めた。    ソファの誘惑は強力で、先程同様、睡魔がじわりじわり・・・と迫ってくる。  ぬくもりを求め、ついつい同じ格好で寝転んでしまって。  煙草を吸おうかとも思ったが、洗い立てのパジャマに臭いがつくのは嫌だった。  嗅ぎ覚えのある香りと共に、足音が近付く。 「また寝る気かよっ」  見れば畳んで置いた服を纏い、髪を拭う忍だった。 「ほらオッサンっ風邪ひくぞ」  腕を組み、仁王立つ姿は迫力があって。  叱咤の言葉に、まどろむ気持ちも吹き飛ぶ。 「ったく」と、忍は宮城の腰元に座った。  スプリングが軋む。  キシ・・・っと鳴る高い音に思わず、いけない想像をしてしまった。  足のない蛇のように、細い腰に静かに絡みつく。  そのまま抱き寄せて。  起こした上半身と眼前の湯立つ半身を重ねれば、自分と同じ香りが鼻腔をくすぐった。  シャンプーも、ソープも、服ですら同じ匂い。  そしてここも・・・と、  宮城はシャツをめくり、そっと固くも柔らかくもない腹を撫でた。 「なに・・・ッ」  嫌がるくせに、抵抗は弱く。  顔を埋めた髪はまだ濡れていて、顔全体が濡れてしまう。しかし不快感はない。  顎を肩に置き抱きしめていると、とあることに気付く。  ソファの誘惑が、強かったからではない。  傍らのひとのむくもりが、  あまりにも優しくて、愛しくて。  凝り固まった疲労は、この湯気のように体から抜け出て、  深まる安心感に、知らず知らずのうち、寝てしまったのではないだろうか。  そうまるで、  あらゆるものから守ってくれる、ゆりかごのように・・・。 「まだ寝ぼけて・・・っ」 「寝ぼけてねぇよ」 「じゃ、さっさとベットで寝れば良いだろ・・・ッ」  血管の浮き出た首筋に狙いを定め、痕のつかないギリギリの力加減で甘噛みする。 「ん!?」  ビクンッと驚く横顔が可愛らしく、硬くなっていた両胸の先端を撫で回す。 爪の間で挟まぬよう、指の腹で撫でてやる。 「な・・・!  いい加減・・・ベット行けよ、オッサ・・・ンッ」 「それ・・・誘ってんのか?」 「は!?」  熱湯で温まった忍の体温が更に上がっていく。 「ぅぁッ・・・ん・・・っ  ばかみや・・・ぎッ」  止まらない情欲。  ぬくもりとは呼べぬほど、体が熱くなっていく。 「痛っ」  この熱は、熱湯などでは引き出せない熱情。 「あつ・・・いッ」  シャンプーとボディーソープの匂いに交じる、 「熱い・・・ッ  みやぎ・・・っ」  汗の香り。 「・・・・・・ッ  お前の方が・・・熱いッ」  匂いも 香りも 心も 体も 名前も そしてこの熱も   全部。 「忍・・・ッ」  「熱に犯されて」と嘯いて、君を抱く。