【君にひとこと言いたい】(エゴ)

「ヒロさん!深爪してますよ」
「ヒロさんv寝癖ついてますよ」
「ヒロさんっご飯粒ついてますよ」

(俺時々・・・・
 こいつと恋人と言うより、
 親子みたいな気分になる時がある)

「ヒロさん♪牛乳でひげできてますよ♪♪(可愛いなぁもうvvv)」



  【今宵も殺す】(エゴ) 「そう言えばこの前・・・」  野分の声は静かだ。  まるで、誰も足を踏み入れたことのない、綺麗な湖のように。 森林の中、陽をたくさん浴びて、冷たそうな見た目とは裏腹に とても温かい。   「あ、明日も一緒にいれますね。夕飯、俺が作ります」 「あぁ、頼む」  喋り方は基本敬語。  俺が礼儀に厳しい奴と知ってか知らずか、きちんと俺を年上 として扱ってくれている。  どんなに会えずとも、仕事が忙しいからと言えば、「仕事を 優先して下さい」と文句ひとつ言わない。  そう、  いつだって、  野分は俺が一番に望んだ言葉をくれる。 「あの・・・すみません。俺ばっか喋っちゃって・・・。  つまらなかったですよね・・・?」 「・・・別に」  お前の声、嫌いじゃないから。  なんて・・・・素直に言えるわけもなく。  まただ。  また、言葉を殺してしまう自分がいた。  殺したものの中に、野分が喜ぶ言葉もあったのだろうが、山より高く、 海より深い俺のプライドが邪魔をする。    プライドが、大切な言葉を殺しているのを、俺はただ見つめている。  言葉は黙って【俺】に殺されていく。見殺しにしている。  一体こんなことをいつまで繰り返すのか。 「ヒロさんに会うの・・・久々だから・・・俺つい」  ぼかん!と殴っておきながら、こんなにも己の気持ちを簡単言えて しまうコイツを、俺は時々羨ましく思う。  もし、少しでも、コイツのように言葉を殺さず、すんなりと伝 えられたら、「キャラじゃない」と笑いながらも、野分は喜んで くれるだろうか。  野分には・・・・与えられてばかりだ。   「ヒロさん・・・」  テーブル越しにいた体が、ゆっくりと音も立てず、隣へ移動する。 「ここ・・・良いですか?」 「・・・・・・。  自分ちでもあるわけだし、  どこにいたって、良いに決まってる・・・っ」  ほら、  どうして「いてくれ」と言えないのだろう。  情けない。  くだらない。  未熟者めっ。  そうやって己を罵っても、  ここまで積み上げてきた【自分】と言う殻を破るのは難しくて。  どんなに理想を並べても、それは空想に過ぎない。 「抱き締めて・・・良いですか?」  包まれる腕に、甘えてしまう。 「・・・・・・・駄目、ですか?」  ぬくもりに、溺れてしまう。  野分は返ってこない返事を肯定と受け取り、唇を寄せた。  触れるだけの軽いキスが、舌の侵入と共に、角度を変え、激し いものとなる。  濡れた音が鼓膜を擽る。  熱い手に頬を包まれ、その手に自分の手を重ねてたのを合図に、 押し倒され視界が天井へと移る。  縺れ合うように、野分のぬくもりを求めた。    あぁ今日も・・・・言えそうにない。  【俺】が、言葉を殺していく。 「ヒロさん・・・ヒロさん・・・っ・・・好きです」  ・・・・・馬鹿野郎・・・っ  今宵も、殺す。

  【目薬】(エゴ) 「う・・・っ痛てッ」 「どうしたんですかヒロさんっ」 「う・・・目・・・ゴミ入ったかも」 「あぁ、擦っちゃ駄目ですよ。  眼球傷付いちゃいます。診せて下さい。  ・・・特に変わった様子はないですが、  念のため、目薬さしましょう。  救急箱は・・・っと。  ・・・・あったあった。はい」 「大袈裟なんだよ。  こんなもん、すぐ取れるって」  ごしごし。 「ああ!!駄目ですってばヒロさんっ」 「っーうか・・・目薬苦手なんだよ」 「じゃぁ、俺がさします。動かないで」  ぐぃ。 「え・・・うわ・・・っ」  顔近けぇ・・・っ  ま、まぁこうしなきゃさせねぇけどさ・・・っ 「さしますよー」  の・・野分の息・・とか、手とか・・・なんか・・・っ  変に・・・どきどきする。  見慣れたはずなのに・・・意識しちまう。 「・・・・・あ!ヒロさんっ」  駄目だッ  やっぱ心臓に悪い! 「もう、目瞑っちゃ駄目じゃないですか」 「うっせぇ!!!もう取れた痛くねぇよ馬ー鹿!!」  あんな至近距離の野分に耐えられるほど、 俺の心臓には毛が生えてねぇんだよボケナス!! 「キスする時はもっと近いのに、どうして駄目なんですか?」 「な!!!!!?」  その後、弘樹の鉄建が野分の頭を直撃したことは、言うまでもないだろう。

  【シンデレラ症候群】(エゴ)

 さらさらの髪、  中性的な顔立ち、  何より瞳から零れ落ちる穢れない涙。  誰かに媚びているわけもなく、自然に溢れ出ていく。  俺はかつて、こんなにも美しい涙を流せる人、見たことがない。  つまり、  一目惚れだった。

  「お考え直し下さい・・・!」    駄目だ、もう走り出してしまったのだ。  知らないあの頃には、戻れない。  今思えば、あそこはどんなに暗く狭い世界だったか。  あの人に出逢って、  俺は変わってしまった。 「何故ですッ  王子には、王子に似合ったお方がたくさんいると言うのに・・・」  大臣は続きを言う事を憚った。  まるでその続きを意味する言葉さえ、疎ましいとでも言うように。  その顔は苦虫を潰したように、不快に満ちていた。  しかし、そんな顔を見ても、野分は満ち足りた気分が害される ことはなかった。何故なら、思い浮かべれば、宝石などよりずっと 美しい涙を流す人の存在が、野分の心を満たすのだ。  逢いたい。  また泣いてるんじゃないかと思うと、胸が潰れるみたいに痛い。  抱き締めて、泣かないでと慰めたい。  泣き顔だけでなく、笑顔も見てみたいから。  今すぐあなたに逢いたい・・・・・・っ  野分が求めれば求める程、彼を取り巻く人々は反対した。 「あなたには・・・あなたには・・・っ  天にも勝る高い地位や名誉、財もあります。  それは決して、誰にでもあるものではありません。  あなたは、選ばれた人間なのです!!」  あれをやりなさい、これをやりなさい。  全ては国民のため、全ては国のため、あなたは選ばれた人間。  選ばれた人間は、選ばれた人間にしか出来ない事がある。  『王子』の義務と責任を担わなければならない。  けれど、野分は自分から何かを求めることなく、周りに従順だった。  彼は幼い時からずっと、周りの期待全てに応えてきた。  だからこそ、野分の発言に周囲は顔を見合わせた。 「でも、俺が選択出来ることは何一つなかった・・・」     場の空気が、一気に凍りつく。  あの王子が意見を言うなんて・・・・・・と。 「俺は・・・皆の期待に応えるために、選択するのを我慢 していたわけじゃない。  選択する対象のモノに、価値を見出せなかったんだ。  だからその選択が俺にとって何かなんて、どうだって良かった。  どうせどちらでも良いなら、皆が望む方を選ぼうとしただけだ」  だが今回は違う。  確実に、自分の人生を大きく左右する選択だ。 「あの人と一緒にいれないなら、俺はこの地位を降りても良い・・・」 「王子・・・!!!」  人々の目に失望の色が強まる。 「なんてことを・・・!」 「そんな人間のどこが良いのですか!?」 「王子と言う位と、たったひとりの人間を、天秤にお掛けになるおつもりか?!」 「ああ・・・!  亡き王がお聞きになったら、さぞかしお悲しみになることでしょう・・・!」  嘆きや憤りの悲鳴が渦巻く。  そんな中でも、野分の背筋は凛々しく揺らぐこともなかった。  その瞳は、どこまでも一途で真っ直ぐだった。  あの人に逢いたい。  そう思うことは、そんなに理解し難いことなのか。  あの人の側にいたい。  そう思うことは、そんなに悪いことなのか。  あの人に笑って欲しい。  そう思うことは、そんなに罪なことなのか。 「俺は・・・あの人が・・・  ヒロさんが、好きです・・・」  野分はそう告げると、その場を後にした。  部屋に戻り、服を脱ぎ捨て、城を抜け出す時に着 る黒のパーカーとジーンズに着替える。  野分に残された『弘樹』の手掛かりは名前と声と顔だけ。  けれど、見つからないのではと言う不安は不思議となかった。  きっと、会える。  根拠のない、絶対の自信があった。  シンデレラに出てくる王子は、ガラスの靴でいとしい人を探した。  俺はそんな不確かな探し方はしない、自分の足であの人を見つ け出してみせる。    ヒロさん、あなたに逢えたのは奇跡でした。  けれど、二回の奇跡を待つつもりはありません。  今度は俺から、逢いにいきます。  だから・・・ねぇヒロさん。  俺が行くまで、もう少しだけ、待っていて下さいね。